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美術に関する展示会、書籍などあれこれ。

おすすめアプリ 【DailyArt】

こんにちは!

今回のポストでは、私が大のお気に入りでかれこれ1年以上使い続けている、「DailyArt」というアプリをご紹介したいと思います。

 

このアプリはその名の通り、毎日違う美術品を紹介してくれるアプリです。

美術品は多岐にわたり、古代から現在までの時代を広くカバーし、彫刻、器から絵画まで毎日様々なものを紹介してくれます。

 

その美術品とともにきちんと解説文も載せられていて、知識も同時に吸収できます。

気に入った絵や画家はハートマークを押せば自分専用のお気に入りフォルダに蓄積され、有料会員はそれをあとから見返すことができます。

 

無料会員の場合はその日届いた美術品とその解説くらいしか見ることができませんが、

700円ほど一度だけ払えば有料会員へ登録することができ、その他の機能もすべて使うことができるので課金の価値ありです。私はアプリやゲームに全く課金しない人間なのですが、このアプリには唯一課金しました。

 

作品の美術史上の時代や作者もリンクとなっていて、そこに飛べば過去に紹介されたその時代や作者の作品も閲覧することができます。さらにシャッフル機能もあり、シャッフルの矢印を押すと過去に紹介された美術品がランダムに出てきてそれを再び楽しむこともできます。

 

このアプリのいいところは、毎日ひとつ、時代も作風も大きく異なる美術品が紹介されるその「一期一会」なところ。であったことのない作品とも出会うことができてとても楽しいです。さらに、過去にお気に入りした作品を振り返ってみると自分の好みがなんとなく見えてくることも。

毎日ひとつを紹介する形式なので、その時期のイベントごとにあった絵画を紹介してくれるのも魅力の一つです。

 

もう一つのいいところは、作品の細部の細部まで拡大してくまなく楽しめることです。

その作品を所蔵している美術館や博物館とパートナーの関係にあることもあり、どの作品もものすごく画質がいいので、拡大すると絵の具の重なりや凸凹、細部の筆の使い方などたくさんのことが克明に見れます。

 

課金も一度きりでそんなに金額も高くなく、毎日これだけ楽しませてくれるアプリなので、美術マニアにも、美術の世界にまだ片足を突っ込んだだけくらいの人にもとってもおすすめです。

 

ちなみにこのアプリの会社は文具などのグッズも展開しているのですが、それがまたかわいい!

私はまだ購入したことがありませんが、大きく絵画をプリントしたノートがとっても素敵なので、いつかかってやろうと画策中です。

 

みなさんもぜひ、手元のスマホに美術館、いれてみてください

 

映画レビュー 『ゴッホ 真実の手紙』編

突然ですが、私は映画が大好きです。

どんなジャンルでも基本的に見るのですが、今回はゴッホに関してのドキュメンタリー映画の感想を書きたいと思います。

 

映画にしては少し短いものですが、主演はベネディクトカンバーバッチで、ゴッホが実際に弟のテオに送り続けた手紙の中の文章を引用する形で、物語が進んでいます。

 

ご存じの方も多いかもしれませんが、ゴッホの人生は本当に山あり谷ありでした。

彼が生きている間に名声を得ることはなく、特に大きな評価を得ることもなく、恋に破れ、親にも理解を得られず、精神を病み、耳を切り取るなどの自傷行為をしたり、精神病院に入院したり、ゴーギャンと共同生活をしたと思えば3か月ほどで破綻し...実に劇的な人生でした。

生涯彼を信じ、理解し、支えていたのは弟のテオのみであったとすらいえると思います。

 

そんな、ゴッホが愛し、またゴッホを愛していた兄弟のやり取りでつづられる、ゴッホの一生ですが、手紙の文言をベースにしていることもあり、ドキュメンタリーなのに叙情的で、哀愁があり、詩的で豊かに仕上がっていました。全体を通して映画がまとっている「雰囲気」がとても味わい深く素敵だったのが印象的です。

 

また、主演のベネディクトカンバーバッチが最高にいい。

もともと私はBBCの「Sherlock」の大ファンなのですが、感情の起伏が激しかったり、起伏のある人生を歩む人物を演じるカンバーバッチは最高に輝いています。彼の演技力で、よりゴッホ像が出来上がった人も、映画の鑑賞者の中には多かったのではないかと思います。

 

ゴッホの生涯は本当に一本のドラマや映画にするには山も谷もありすぎるほど劇的で激しく、暗く、また悲しく孤独なものでした。と、同時に影にはいつも弟のテオがいたのです。そんな兄弟愛を感じられ、ゴッホが不憫になると同時にこの兄弟に胸が温まりホッとするような、なんとも不思議な感情を抱きました。

 

ゴッホの絵は重厚で色彩豊かで、エネルギーのこもった動きのある作品が思い浮かびますが、実際にそれを書いていた彼自身は常に希望と絶望を繰り返していたのだという事実に、なんとも言えない気持ちにさせられました。

命を削り、表現し、自分のエネルギーをすり減らしてまで作品を残し続けようとした、それがひしひしとつたわってくる作品でした。

 

ゴールデンウィークに、ぜひ。

 

 

美術本読書記録『江戸の女装と男装』

今回は日本最大級の浮世絵所蔵数を誇る、太田記念美術館が監修した『江戸の女装と男装』という本をお勧めしたいと思います。

江戸の女装と男装

カバーも中身もカラフルで何ともおしゃれなこの本は、タイトルの通り、

浮世絵を通じて江戸の女装と男装の在り方についてみているものです。

 

私が大学でジェンダー学を学んでいたこともあり、この手のテーマは好んで読んでいたのですが、浮世絵鑑賞の切り口の一つとして非常に面白く、またとっつきやすいものだと思いました。

 

ぱっと思い浮かぶ日本の伝統の中の異性装といえば、歌舞伎や能などの舞踊の中で役者さんがするものだと思いますが、実はそれ以外にも、一般の庶民の間でも、江戸時代にはお祭りなどの行事を通して異性装をすることがよくありました。

 

例えば吉原で働いていた女芸者たちは、吉原俄というお祭りの際に、観衆を楽しませるために男性の恰好をして町を練り歩き、演目を披露していたようです。本の中では当時の「吉原細見」という吉原のガイドマップのようなものと浮世絵の中に見られる役者の名前とを照らし合わせていたりと、細かな照合もなされています。

 

男性の女装でいえば、歌舞伎役者による演目について描いたものも多くみられました。

 

この本の良いところは、なんといってもそれぞれの絵の印刷の明瞭さと大きさ。美術館の図録のように大きく、見やすく、絵画鑑賞を自分の手の中でしている気分になれます。また解説も多すぎず少なすぎず、コラムで詳しい知識もはさみつつ内容が進んでいきます。

本の中身もとにかくおしゃれでカラフルで、読むというより眺めるに近い形で最後のページまで楽しみ切ることができます。

 

コロナのおうち時間、読書や美術鑑賞で自分の感性を豊かにしてみるのはいかがでしょうか

おうちが美術館【ヴァーチャル美術館ツアーおすすめ3選】

コロナでのおうち時間、去年からずーっと継続していて、

そろそろやることもなくなってきますよね。

 

そこでお勧めしたいのが、世界中の美術館が無料公開している

ヴァーチャルミュージアムツアーです。混雑も気にすることなく、気になった絵の目の前で好きなだけ立ち止まって、絵画の世界に浸ることができます。

ゴールデンウィーク中に自分の感性を養うべく、皆さんも正解中の美術館におうちからお出かけしてみましょう!

 

 1.ウフィッツィ美術館(フィレンツェ・イタリア)

誰もがご存じであろう、花の都フィレンツェにあるメディチ家のコレクションが集まったウフィッツィ美術館。実は私は一度訪れたことがあるのですが、平日にもかかわらずそれはそれは並びました。中もかなり混雑していて、「ヴィーナス誕生」など超有名な作品の前には常に人だかりができていました。ウフィツィ美術館の膨大なコレクションの中には、ボッティチェリダヴィンチ、ミケランジェロラファエロなど超ド級の画家の作品が含まれています。見ない手はないです。

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2.大英博物館(ロンドン・イギリス)

これまた誰もが知っている博物館です。ここも私は言ったことがあるのですが、この規模の、こんなに膨大な収蔵品があって無料で入れるなんて、とびっくりしたのを覚えています。

 言語解読において大きな役割を担った、きっと世界で一番有名な岩であるロゼッタストーンに始まり、パルテノン神殿の彫刻やモアイ像にミイラなど、知的好奇心をあおってくる実に様々な収蔵品が楽しませてくれます。一日あっても足りないくらい、実際に行った際には楽しめましたので、オンラインでもゆったりと眺めて楽しむことをお勧めしたいです。

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3.バチカン美術館(バチカン

ここもヴァーチャルツアーやっているのにはめちゃくちゃ驚きました。実際行ったときはすごく並んだし、セキュリティーがめちゃくちゃ厳しかったのを覚えています。広くて、壮大で、目を見張るような作品ばかりで...感動で泣きました。そんな美術館を、オンラインでも見られるなんて!

見どころは語っても語り切れませんが、聖ヒエロニムス(ダヴィンチ)、アテナイの学堂(ラファエロ)、慈愛と四人の子供(ベルニーニ)などなど。。。とにかく見てほしいです!!!!

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以上、3選でしたが、ほかにも素晴らしい美術館が数えきれないほどのヴァーチャルツアーを公開してくれています。知識がない人でも気軽に始められる美術鑑賞、ぜひこれを機にやってみてください。 

 

 

美術本レビュー 『東京藝大で教わる絵画の見かた』

東京藝大で教わる西洋美術の見かた (基礎から身につく「大人の教養」)

「バランスよく作品を知るより、個々の作品に対する具体的なアプローチを学んだほうが、実は美術鑑賞のコツを得るには手っ取り早いのです。」

 

この本の著者の佐藤直樹先生の言葉です。

通常、西洋美術を学ぼうとしたとき、その多くは歴史の流れとともに、代表的な作家と作品を取り上げ、その時代時代の特徴を追いながら学校の歴史の授業のように進みます。

しかし、この本の目的はそのような通史的な見方をすることではなく、各時代の作品を取り上げ、その一つ一つを細部までひろい、構図を見て、丁寧に分析することで、そこから帰納法のようにその時代のエッセンスとその画家のエッセンスを抽出することです。

なので通史的に学びたい人にはあまり向かないかもしれませんが、一つ一つの絵に隠されたメッセージや、その背後にいる画家の人生、その時代背景など、一つの絵の見方を学びたい、一つ一つの絵に隠された物語を読み解いてみたいという方には非常におすすめです。

 

一応、私は一通りの美術史は理解していますが、それでもこの本の解説は非常に興味深く、細部の細部まで拡大して画家の意図やそこに暗示される意味を読み取っていく作業はとても楽しく臨場感のあるものでした。大学時代にこんな勉強できていたならなあと芸大生をうらやむばかりです。

 

佐藤さんは実際に東京藝術大学で教鞭をとられている先生で、ハマスホイ展の監修をされた方でもあります。この本をまとめる際は、実際に藝大で実施している講義を本に閉じ込めるような感覚で執筆されたそうです。

一般的な歴史の教科書のような美術本が好みではない方には、臨場感のあるこの本はぴったりだと思います。

 

カラー図版でわかりやすくたくさん絵画も載せられていますが、本のサイズの制限上、小さくて見づらい細部もありますので、スマホやパソコンで同じ絵をじっくり拡大して眺めながら読み進めるのも面白いかと思います。

 

佐藤先生のこの本を読んで得られる知識は、単なる知識ではなく、今後も鑑賞に役立つ特徴やフレームワークなど、どちらかというと「知恵」に近い感じがしました。

 

とにかくとっても楽しんで読めました。

ゴールデンウィーク、ぜひご一読あれ。

蛇とメデューサ

私が大好きな絵の一つに、ルーベンスの「メデューサの頭部」があります。

 

ギリシア神話主題の絵の中ではよくある題材ですが、

ルーベンスの作品は凄みが違います。

 

おどろおどろしい暗い空を背景に、薄い硫黄のような色の、自然の中にあるには不自然に平らな岩の上に、ゴロっと転がる白い頭部。

メデューサの顔は血の気が消え、その目は見開かれたまま。

メデューサはすでに死んでいるというのに、その頭部の蛇が元気にうねうねと躍動感たっぷりに動いている、不気味な対比。

怖いのに目が離せなくなるような凄みと迫力があります。

 

なんでこんなおどろおどろしい絵の話からこの記事を始めたかというと、最近蛇を見に行ったから、という何とも安直な理由です。

緊急事態宣言の発出の前に、友達と蛇カフェなるものにいってきました。

もともと爬虫類は大好きですし、蛇もかわいいし何なら飼ってみたい~と思ってるくらいなので、ワクワクしながら行ってきました。

 

それはまあ、なんとも不思議な空間でした。

お店に入ると一応カフェなので飲み物が出てくるとともに、その場で指名した蛇が入ったケースをテーブルの上に置いてもらい、その蛇を見ながらお茶を飲む。

私たちが選んだのはアルビノのアオダイショウで、活発に活動している時間帯だったのか、ずーっと元気に動いてくれてました。

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さらに追加料金を払えば好きな蛇二匹を実際に触ることもできて、首にも巻かせてもらいました。

 

実際に蛇を持ってみると、動くたびに体の筋肉が波打って動いているのがじかに伝わります。首に巻いているときもそう。収縮し、力が入り、そこの力が抜けると別の部分が収縮する。その時の筋肉の硬さと言ったらすごいです。

 

あの長い体を、あんなに細い胴体で支え、立ち上がったりうねうね動くわけですから、全身筋肉なのは当たり前なのですが、ただ知識として知っているのと触ってみるのとではえらい違いでした。

 

そこで、ルーベンスのあのメデューサが頭に浮かびました。

あの躍動感。立ち上がっている蛇たち。渦巻いている蛇たち。

ルーベンスはこの筋肉の動きを描きたかったのかもしれない、とふと思いました。もちろん知識としてあんな動きを蛇たちがするのは知っていました。そしてルーベンスが蛇たちの動きを多少誇張して瞬間を切り取っているのも想像していました。

 

でもそう描きたくなるのもわかります。触って感じるあの筋肉の動き。

どんな動きだってどんな体勢だって可能にしそうなあの収縮。

死んだメドューサの頭部の蛇のみ、あんなに踊るように動いているあの力強さは、ここからきてるのかなあなんて思って、皆さんに共有してみたくなりました。

 

蛇嫌いな人からしたら何とも気色の悪いポストとなりましたが、

美術マニアが全然違う新たな体験からまた勝手に絵を解釈してみたよ、というお話でございました。

 

追記:お土産として脱皮した皮が売ってありました。金運の守り神としてお財布にはさむ用に買うか、本気で悩みました。

美術館ログ 「あやしい絵展」編

「あやしい」って、どんな意味でしょう?

怖い、不気味、奇怪....

 

それだけではなく、広く深い意味でとらえた「あやしい」を、この展示会では見せてくれました。

妖艶で、エロティックで、グロテスクで、嫉妬深くて、神秘的で、同時に現実的すぎる。

おなかの底からぞわっとしたものを感じる絵もあれば、美しさに目を奪われる絵もありました。

 

この作品展のすごいところは、そのテーマ設定の斬新さもさることながら、取り扱っている作品の幅の広さです。浮世絵から始まり近代の日本画、西洋の象徴主義のころのポスターや本の挿絵、版画、抽象画、人形などなど。とにかく「あやしい」ものすべて。

画材も油彩から水彩、パステルにリトグラフなど多種多様。単純に、一度でこれだけ幅広く楽しめるんだからお得感満載です。

 

西洋作品ではミュシャの妖艶なポスターからビアズリーの奇々怪々な挿絵、ジョーンズの様々なマドンナ像をみずみずしい色彩で描いたフラワーブックなど、美しく、繊細で、なのにどこか薄気味悪さを感じる絵が並びます。

「美しきものには毒あり」まさにそんな雰囲気をまとった作品たちです。

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日本の作品ではおどろおどろしいお化けや傷だらけの武将たちの浮世絵から始まり、リアルすぎてグロテスクさすら感じる稲垣仲静の「太夫」や、背景の色の深さと彼女たちの美しき青白い顔に何か勘ぐらずにはいられなくなる甲斐庄楠音の舞子たちの絵、さらにビアズリーの影響を受けその退廃的な画風を取り入れた雑誌の挿絵など、見どころ満載でした。

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直視するには怖い、でも見ずにはいられないような...怖いもの見たさみたいな感覚がずっと背中にへばりついているような気持ちで展示室を進んでいったのを記憶しています。

場内はにぎわっていて、みなさん不可思議な妙な世界をたのしんでいました。

 

今は緊急事態宣言が出て休館中かと思われますが、解除の際は、感染対策をしっかりしてぜひあの独特な暗く深く幻想的で摩訶不思議な世界をぜひ体感してほしいです